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 わたしは、今宵、食べる。
王を食べるために走るのだ。身代わりのヤセヌンティウスは食えるような肉がないから大丈夫だろうが、王の暴飲暴食を打ち破るために走るのだ。
走らなければならぬ。そうして、わたしは食べる。
若いときから食事のマナーを守れ。さらば、普通食。
多食のメロシはつらかった。幾度か、腹が鳴った。えい、えいと大声を上げて、腹の虫をしかりながら走った。
野菜生活パワーが切れて、たとえ速度が人並み以下(歩くスピード)に落ちても、メロシは走った。
 村を出て、野でライオンに追われ、森で食人植物に食べられそうになり、隣村に着いたころには雨も止み、日が高く昇ったところでメロシは大量の汗をかいていた。
服をしぼればコップ一杯分の汗がとれるだろう。

 ここまで来れば大丈夫。もはや普通食への未練はない。
私は野菜生活から人肉生活になるのだから。とよだれをたらしながら妄想していた。
人肉が食べられれば満足なのだ。あの肥えた王の肉を。
ゆっくり歩こう、と持ち前ののんきさを取り戻し、メロシの好きな「み●なのうた(NH●)」をいい声(?)で歌いだした。
 ぶらぶら歩いてそろそろ全里程の半ばに到達したところ、降ってわいた災難、メロシははたと止まった。
見よ、前方の川を。昨日の豪雨で山の水源地が氾濫し、猛勢一挙に橋を破壊していた。
メロシは茫然と立ちすくんだ。あちこちを眺め回し、メロシはその場に座った。
そして、ポケットに入っていたチュ●パチャ●プスのストロベリー味とグレープ味を引っ張り出して、二つを同時に口に入れて舐め回していた。
舐めながらメロシはなにかを考え、不意に立ち上がり、叫んだ。
「ヴェウフほ!はは、ひふめたふぁふぇ、はふぇふふーふぁふぁふぇほ!」
メロシは口にチュ●パチャ●プス2本をくわえたままだった。
もちろん、川の氾濫はおさまらなかった。
ガリガリと音を立てながらチュ●パチャ●プスを砕いてからもう一度、
「ゼウスよ!ああ、しずめたまえ、荒れ狂う流れを!」
 濁流は、メロシの叫びをせせら笑うごとく、ますますと激しく躍りくるう。
 メロシは覚悟した。泳ぎきるよりほかはない。
濁流にも負けぬ食欲とチュ●パチャ●プスの偉大な力を、今こそ発揮してみせる。
メロシはざんぶと飛び込み、一度底に沈んで浮いた。
まるで浮き輪のよう――人間浮輪である。
ぷかぷかと流れに乗っていると、対岸に流れついた。
メロシはまた、王城へ向かって歩きだした。

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